- Profile
-
- 大学2年生、応急手当普及員 芹澤 零音
- せりざわ・れおん。高校2年生のときに立ち上げた「日本応急手当普及員協議会」代表。学業のかたわら、心肺蘇生を含む救命講習をボランティアで行う。活動のモットーは「あなたのそばに救える命がある」。夢は小学校教諭。趣味はサイクリングで、自宅から他県にあるアミューズメント施設まで往復200㎞を走ったことも。
もし、目の前で誰かが倒れたら?それが友達や家族だったら、自分に何ができるだろう。そんな問いに1つの答えを示してくれたのが、東京の大学に通う20歳の芹澤零音(せりざわれおん)さん。応急手当普及員として活動する芹澤さんに、応急手当の基本から今後の目標、ユースへのメッセージもうかがいました。

応急手当で小学生が父親を助けたケースも
――さっそくですが、応急手当とはどんなものなのでしょうか。
応急手当とは、人が突然倒れたときなどに、その人の命を守るために行う手当のことです。まず、周囲を確認し、自分の身の安全を確保すること。そして、倒れた人の肩をたたいて反応を確かめ、まわりの人に助けを求めたり、119番通報をお願いしたりします。必要があれば、胸骨圧迫や人工呼吸、AEDを使って心臓に電気ショックを与えます。これらを心肺蘇生と呼びます。
人工呼吸は「難しそう」「できないかも」と感じる人もいますが、訓練を重ねれば必ずできるようになります。特に子供に対しては実施することが望まれます。
※人工呼吸用マウスピース等を使用しなくても感染危険は極めて低いといわれていますが、感染防止の観点から、人工呼吸用マウスピース等を使用したほうがより安全です。
――応急手当は誰にでもできることですか。
トレーニングを重ねれば、誰にでもできます。実際に、小学生が自分のお父さんを助けた例もあります。僕が開催した救命講習に一度だけ参加した高校生が、学校で倒れた生徒にAEDを持ってきて対応したケースもありました。幸い心停止ではなかったそうですが、勇気のある行動だったと思います。

――芹澤さんはどうして応急手当の知識を広める活動をしようと思ったんですか。
日本には、学校や交番、駅の構内などに約69万台のAEDが設置されています。数としては世界一ですが、実際に使われるのはわずか4%ほどで、とても少ないんです。
※参考
あなたの近くのAEDをすぐ見つける!AED設置場所を地図で簡単検索できる救命支援サイト
財団全国AEDマップ
僕は小学生の頃に「消防少年団」の活動で応急手当を学び、初めてAEDに触れました。「こんなに小さな機械で本当に命を救えるの?」と、そのときは理解ができず、AEDについて小学校の先生に聞いてみたんです。そしたら答えは「AEDは知っているけど、触ったことがない」というものでした。
AEDはたくさんあるのに、先生でも使ったことがないなんて。そのことに小学生ながら矛盾を感じたのが、普及員として応急手当を広める活動の原点になりました。
――そういったきっかけがあったんですね。ちなみに「消防少年団」に入ったのはどういった理由があるのですか。

消防少年団のころ(本人提供)
きっかけは小学1年生の頃、12月に駅前を歩いていたら「火の用心!」と声を上げて歩いている小学生を見つけました。それを見たとき直観的に「かっこいい」と思い、母親に聞いてみたところ、消防少年団であることがわかりました。そのまま説明会へ参加して、小学2年生のときに入団しました。この活動も自分にとっては、大切な時間になっています。
取材中にサイレン音「助けてくれた人はいたかな…」
取材の途中、建物の外で救急車のサイレンが鳴り、撮影を中断する場面がありました。耳を傾ける芹澤さんの表情が印象的でした。
――今、外で救急車のサイレン音が鳴りましたが、やはり、敏感に反応してしまうんですね。
はい。何があったんだろうって、つい気になってしまいます。よく電車が遅延すると「急病人救護」というアナウンスを耳にしますが、電車が遅延して、自分が予定に遅れてしまうことよりも、「その人を助けてくれた人はいたのかな」と、心配のほうが先に立ちます。
実は、今朝もここへ来る前に消防団員として緊急出動してきたんです。さきほど話にも出た「消防少年団」の延長で、今は大人の組織に所属しています。起きてすぐ火災発生の連絡がスマホに届いたので、防火衣を着て詰め所に駆けつけ、そこから消防車で現場へ向かいました。

――そうだったんですか。とても頼もしい行動ですね。芹澤さんは若くして、救命や消防の現場で活動していますが、救命講習に参加する若い世代は少ないそうですね。応急手当を学ぶことの良さや大切さを教えてください。
たとえば、友達や家族が倒れたときに行動できなかったら、それはすごく悲しいことですよね。応急手当の知識をつけるだけで、できることはあります。救える命を助けられる可能性もあります。それをぜひ知っておいてほしいです。
それに、自分自身が倒れることだってあるかもしれません。応急手当の知識を持つ人が増えれば、自分も救命してもらえる。お互いを助け合える社会になってほしいと思っています。
心停止したら、おおむね1分経過するごとに救命率が約10%下がってしまう
――確かに、そういう社会に生きていると感じることができれば、自分に何かがあったときも大切な人が倒れたときも安心です。コロナ禍では救急車の数が足りずに到着が遅れ、AEDの重要性が高まったというニュースもありました。
心停止したら、おおむね1分経過するごとに救命率が約10%下がるといわれています。つまり、5分間何もしなければ約50%下がってしまう。
いかに迅速に応急手当を行うかで、生存率が変わることはデータでも示されています。「応急手当をすることで、救える命を助けたい。」それを掲げてこの活動を続けています。

参考:公益財団法人日本AED財団ホームページ改編
このグラフは心停止となってから電気ショックまでの時間と救命率を示したものです。
電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約10%ずつ低下していき、5分間で約50%程度まで落ちるとされています。
その場に居合わせた「あなた」の行動で救える命があります。
専門的な知識はない…そんなあなたにもできること
――実際に芹澤さんが応急手当を行った経験を教えてください。
高校3年生の12月、道路を自転車で走っていたときに、乗用車とバイクの衝突事故を目撃しました。すぐに現場へ駆け寄り、バイクの男性に応急手当を始めたところ、たまたま居合わせた看護師の方も手伝ってくれて、男性は心停止になることもなく、無事に搬送されました。
そのとき、多くの人がスマホで撮影をしているだけで、何もできずに戸惑っているように見えました。そんな光景に強い危機感を覚えたのを、今でもはっきり覚えています。
――そういったことがあったんですね。ただ、私も同じ現場に居合わせていたら、戸惑って取るべき行動が取れなくなってしまうかもしれません。応急手当の知識がなくても、その場でできることはありますか。
あります。心肺蘇生や応急手当ができなくても、119番通報をする、救急車を呼ぶ、自分が“カーテン”となって傷病者を見えないようにする、などの行動は可能です。
――カーテンになるとはどういったことですか?
心肺蘇生を行う際は、傷病者の服を脱がす必要があります。そこで、周囲の人たちが傷病者を囲うように体を並べることで外部からの視線を遮り、カーテンのような役割を果たし、傷病者のプライバシーを守ることができます。このように、専門的な知識がなくてもできることはあるので、ぜひやってみてください。
目指すのは法整備「助けた人も守りたい」

――応急手当普及員として、どのような活動をしているのか教えてください。
週1回ほどのペースで、学校や企業での救命講習や研修を行っています。大学の授業との両立もあるので、休みの日を活用する場合がほとんどです。
――なかなか毎日目まぐるしいですね。
救命講習を行う人員が足りず、需要に供給が追いついていない状態です。本当に学びたい方が学べない現状があります。そういった方の力に少しでもなれればと思っています。
――そんなお忙しい芹澤さんですが、講習をやっていて良かったと感じることはありますか。
救命講習で初めてAEDに触れてもらえたときは、本当にうれしく感じます。なぜなら、単に機器の使い方を学ぶだけでなく、自分が誰かの命を救う可能性を広げる一歩になるからです。この体験によって、救命のチャンスが増えていくという希望が見え、講習の重要性をより深く実感できます。
――今後、目指していることを教えてください。

「応急手当に協力した人を法的に守る」仕組みを整えることです。誰かが目の前で倒れたら助けたいと思う人は多いですが、失敗したら責任を問われることを不安に思う人もいます。たとえばアメリカ合衆国には、「グッド・サマリタン法(Good Samaritan Law)」と呼ばれる法律があり、救命活動を行った人を保護する仕組みがあります。また、他の国にも同様の仕組みを持った法律が存在しています。僕はこれを日本でも実現し、誰もが安心して人を助けられる社会をつくりたいと思っています。
――法整備まで視野に入れているんですね…!高校時代に「日本応急手当普及員協議会」を立ち上げ、学校では生徒会の庶務も務めたとうかがいました。
応急手当普及員としての活動はもちろん、生徒会活動に学業、部活の剣道と全力で駆け抜けた高校時代でした。
――大人でも目を見張るほどの行動力ですが、芹澤さんも何かにつまづいたり、うまくいかないことはあるのですか。
もちろん、ありますよ。僕は緊張もしやすいし、熱しやすく冷めやすい部分もあって、そこは欠点かなと思っています。勉強に集中できないときは親にスマホを取り上げられたこともあります。
――芹澤さんにもそういった過去があったんですね。
皆さんと変わらないユースでした。だからこそ、僕らのような若い世代が応急手当を教えることで、「救命って難しそう」というハードルを下げられると思っています。




