みんなが思う普通にはなれない

ジェンダーレスの井手上漠さんがユースに伝えたいこと

悩んでいるときこそ、大切にしてほしいのは…

Interview
性のこと

公開日:2026年3月24日

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Profile
タレント 井手上 漠
いでがみ・ばく。2003年生まれ。第31回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストにて「DDセルフプロデュース賞」を受賞。バラエティ番組や雑誌などに出演するようになり、初のフォトエッセイ『normal?-普通って何?-』(2021年)を出版。22年3月には、『絶対BLになる世界vs絶対BLになりたくない男シーズン2』でドラマデビュー。同年にはジェンダーレスファッションブランド「BAAKU」をプロデュース。2025年は初の美容本『自信がつく美容、美容でつく自信』を出版。常に自然体で「自分らしく」を掲げており、容姿のみならずそのアイデンティティにも多くの支持を集めている。趣味は美容、読書、自然を訪れること。

「性別ないです」と公言するタレントの井手上漠さん、23歳。自然豊かな島でのびのびと育った幼少期。小さい頃からキラキラしたものが好きで、女の子に混ざり、人形で遊んでいたと振り返ります。一方で、小学5年生から中学2年生までの記憶がほとんどないと語るその理由は?ジェンダーに悩むユースに向けて、漠さん自身の経験から紡いだリアルな言葉を届けてくれました。

小学5年生で「奇妙なやつ」と呼ばれるように

――「漠」という名前、とても素敵ですね。どんな由来があるのですか。

砂漠のように広い心を持ってほしいと、父が名付けてくれました。母は優しい響きの名前が良かったみたいですが、「男の名前は俺が決める!」と聞かなかったみたいで。自分の名前はとても好きです。個性的な名前だし、誰とも被らないから。

――漠さんは、どんな子供でしたか。

住んでいたのは島根県の隠岐の島という小さな島です。3歳のときに祖父母が連れて行ってくれた結婚式でウエディングドレスに魅了されたのを覚えています。そこからかわいいもの、キラキラしたものに憧れるようになりました。幼稚園では人形で遊ぶ女の子に混ざっている子でしたが、誰も違和感を抱いていなかったと思います。だけど、小学校の高学年になって、着替えなどで男女別に行動する機会が増えた頃、私の立ち位置が「奇妙なやつ」になっていきました。

「なんでお前がこっちにいるの?」っていう違和感。社会的な区別が始まったと同時に、思春期というタイミングも重なったんだと思います。今なら男の子たちの気持ちもわかりますが、当時は私の何がおかしいのかわかりませんでした。

学生時代の漠さん(本人提供)

――奇妙な存在として見られるようになって、漠さんはどうしたのですか。

私はずっとヘラヘラと笑ってごまかしていました。そうやって自分を守っていたんだと思います。だけど「普通じゃない」「気持ち悪い」って言われることがあまりにも増えて、このままでは自分のやりたいことができないと、外見を変えることにしたんです。それが小学5年生の頃かな。そこから中学2年生まで、実は記憶がほとんどないんです。心を閉ざしてしまっていて記憶がないのか、思い出せないんですよね。

小さい頃から大泣きするほど、髪を切ることが嫌いな子でした。髪は私を守ってくれる大切な存在だったから。ですがそのときは泣きながら母に「スポーツ刈りにして」と頼み、フリフリした服やキラキラした服もやめました。男の子の真似をして、自分を隠すことにしたんです。今思えばできることは他にもあったと思います。だけど、当時はそれ以外の方法がわからなかった。相当つらかったです。それだけは、はっきり覚えています。

閉ざし続けた心を溶かした母のひとこと

――小学5年生から中学2年生までの記憶がほとんどないということですが、なぜ中学2年生までなのか。何かきっかけがあったのでしょうか。

部活から帰宅したある日、夕食を終えると母から「話がある」と言われました。「学校で何か悪いことしたかな?」とすぐにはわからなかったけど、母に恋愛対象を聞かれたんです。ぶわっと鳥肌が立ちました。母が私のことを知ろうとしている…!という不安や恐怖と同時に、やっと打ち明けられるんだという安堵感もありました。

母が作った思い出の料理(本人提供)

――それまで、自分のセクシャリティについてお母さんに相談したことはなかったんですね。

うちは母子家庭だったので母は働き詰めでした。学校の行事には一度も来たことがありませんでしたが、いつも誰よりも目立つキャラ弁を作ってくれて、運動会では私をクラスの中心にしてくれました。変わった存在として見られていたし、父親がいないことでさみしい思いをさせたくなかったんだと思います。そんな母にそれ以上の心配をかけたくなかったから、自分のセクシャリティのことを相談したことはありませんでした。

――このとき、お母さんに打ち明けようと決めたのはなぜですか。

母だけだったんですよ、唯一私を否定しない信頼できる大人が。いろんな大人から否定され続けてきた私のことを、ハッピーな人間として周囲に伝えてくれていたのも母だし、いつも後押ししてくれる存在でした。だから、打ち明けようと決心したんです。好きになるのに性別は関係がないこと、学校で起きたあらゆる出来事を、細かくすべて話しました。
私が一方的にしゃべり続け、涙が止まらず、嗚咽しながら過呼吸になって、全身が痺れてくるほどでした。それだけ、閉ざし続けていた心の中の、言葉では表せないものが溢れ出したんだと思います。

――お母さんは、そんな漠さんを見てどう応えましたか。

母は何も言わずじっと静かに聞いていて、最後にひとこと「漠は漠のままでいいんだよ。それが漠なんだから」と言ってくれました。あとは「お風呂に入ってきなさい」とだけ。そして翌朝も、いつも通りの母でした。本当の私を理解してくれている人がいると思うと、体から力が湧いてきました。母からのひとことは私の心を溶かし、今でもこの言葉が背中を押してくれています。

ジェンダーに悩むユースへ伝えたいこと

――自分自身のアイデンティティと向き合い、乗り越えてきた漠さんが、今ジェンダーに悩むユースへ伝えたいことはありますか。

セクシャルマイノリティに生まれると、周りから浮く存在になりやすいし、人とうまく打ち解けることも難しい。そういう悩みを抱えている人は多いと思います。私は小学5年生で自分を隠し、髪を切って男の子の真似をしたけど、結局は受け入れてもらえなかった。偽っても偽らなくても、みんなが思う「普通」にはなれなかったんです。

それなら「どうやったら受け入れてもらえるか」を考えました。私のことを「奇妙なやつ」と指をさす人たちは、私が美しくなれば性別関係なく「あの子、綺麗だよね」「必要な人だね」って言ってくれるんじゃないかって。私が美容を追求したのはそのためだったし、私を救ってくれたのも美容です。自分から心のシャッターを閉ざしている場合もあるから、もしそうなら、開ける努力も必要かな。

――誰にも打ち明けられず孤独を感じるユースへ、何かアドバイスはありますか。

人生ってすごく意地悪で、壁を乗り越えたと思ったら違う壁ができての繰り返し。私自身、心が削られることは今もあって、苦しくて孤独を感じるときは映画を見て涙を流すとか、本を読んで誰かの言葉に救われるとか、「人じゃないもの」に救われています。現実逃避した先で出会うものもあるよっていうのは伝えたい。

相手のジェンダーを理解するのは無理。だけど…

――漠さんの「ジェンダー」に対する考えを改めて聞かせてください。

男性女性という生物学的な区別は、これからも一生変わらないと思います。でも、最近「LGBTQ」に「+(プラス)」が付いたように、心の性別は無限にある。世界を見渡せば、男性が好きな男性、女性が好きな女性、どちらも好きな人もいる。性的欲求を抱かない人もいれば、アセクシャルといって恋愛をしない人もいます。本当に未知なんです。こういうセクシュアリティの話をすると「何だそれ?」っていう反応をする人もいるけど、関心がないのも理解しない人がいるのも、それはそれだと私は思います。

本当はジェンダーの話を細々するのはあまり好きじゃないんです。だけど、新しい世代がどんどん出てくれば価値観は変わっていくし、認め合えなかったら世代間で争いが起きてしまうかもしれない。だから、性別に縛られず活動しているアイコンとして、私はジェンダーレスという言葉を言い続けようと思っています。仲介者になれるかもしれないし。

――価値観の違いで人と人が争うのは嫌ですよね。相手を理解する、そのための心得みたいなものはありますか。

理解することはなかなか難しいことです。相手の人生を0歳からさかのぼって共に過ごさない限り、心から理解することはできない。理解する必要はなく、相手を否定せずただ認め合うことが大事だと思っています。私の姿を見て「女性になりたいんでしょ」って思う人もいるけど、私は女性になりたいわけじゃないし、恋愛対象を性別でわけることもしない。この感覚を理解する人はとても少ないんじゃないかな。

人間ってとても頑固だから、新しい価値観や触れたことのないものに出会うと、一歩身を引いてしまう性質なんだと思います。だけど「相手にも心がある」と思えたら、少し優しくなれませんか。

例えば、すごく嫌な態度をとってきた人がいたとします。その人を自分の友人だと思えば、「もしかしたら今日すごく嫌なことがあったのかも」って想像することもできる。愛を持って相手に触れる感覚を覚えれば、理解はできなくても“認める”ことで補える。私はそう思っています。

Message

みんなへのメッセージ

私にとって美容がそうであるように、趣味でやっていることが自分の人生を救ってくれたり、人間関係がうまくいく秘訣になったりすることがあります。好きなものは底なしで、知らない世界が永遠に広がっている。意外とたくさんのヒントが詰まっているんです。好きなことは自分らしさともイコールで、それに向き合っている瞬間だけは絶対に嘘がない。悩んでいるときこそ、自分の“好き”を大切にしてください。