性暴力・デートDV・同意

性暴力。被害者にも加害者にもならないために――「安心できる関係性」のつくり方

ハリー杉山さん、染矢明日香さんと一緒に考えてみよう

Interview
恋愛のこと
  • line 別ウインドウで開く
  • x 別ウインドウで開く
Profile
タレント ハリー杉山
はりー・すぎやま。東京生まれ、イギリス育ち。イギリス人の父と日本人の母を持つ。日本語、英語、中国語、フランス語の4ケ国語を操る卓越した語学力を持ち、司会、リポーター、モデル、俳優などマルチに活躍。2023年に東京都から「東京観光大使」に任命された。
NPO法人PILCON(ピルコン)代表 染矢明日香
そめや・あすか。自身の経験を機に、日本の望まない妊娠・中絶の多さに問題意識を持ち、大学在学中に「ピルコン」を立ち上げ、2013年にNPO法人化。イベントや動画コンテンツの製作・発信、政策提言を行い、思春期からの正しい性知識の向上と対等なパートナーシップの意識醸成に努めている。公認心理師。

ハリー杉山と染矢明日香

同意なく性行為を強要したり、からだをさわったり……「性暴力」と聞くと、からだへの直接的な暴力が思い浮かぶ人が多いかもしれません。実は、からだに触れなくても十分「性暴力」といえる行為があります。「性暴力」って?「同意」ってなんだろう?どうしたら避けられるの?タレントのハリー杉山さんと、専門家の染矢明日香さんが話し合いました。

性暴力ってそもそも何!?

杉山:きょうはみんなで考えたい問題、「性暴力」についてお話ししたいなと思ってきました。

性暴力というと、よく聞くのは「同意のない性交渉」という言葉なんですが、そういうフィジカル(身体的)なコンタクトだけじゃなくて、人をからかったり、やゆしたりする言葉なども性暴力に入ってくるのでしょうか。

染矢:そうですね。セクハラや性的な言動も性暴力になります。最近だと「デジタル性暴力」というのもあって。たとえば勝手に裸の写真を撮るとか、逆に自分の裸や性器の写真を相手に送りつける行為も性暴力に入るんです。

ハリー杉山と染矢明日香の対談風景

杉山:「同意のない性交渉」という言葉ですが、そもそも「同意がない」ってどういうことなんだろうって思うんです。

染矢:「同意」というキーワードは、メディアでも取り上げられるようになってきていますね。いま、同意のない性的な触れ合いとか、言動すべてが性暴力になるという考え方が広まってきています。

背景には、これまで誰かが性的なことで傷ついたり、モヤモヤしたりしても、性暴力として裁かれてこなかったことがあります。「性暴力」と「性的な楽しい触れ合い」をどう分けるかというと、やっぱりそこに同意があるかどうかということがすごく大事なんです。じゃあ何が「同意」で、何が「同意じゃない」かということをみんなで考えていこうということで、法律が見直されるなどしてきています。

杉山:たとえば僕が女性を誘ったとき。女性は嫌われたくないから「いいよ」と言ったけど、内心では動揺しているとします。こういうとき、動揺している彼女に対して自分が気づけるかどうか、本当に難しいです。

染矢:やはり、「対等な関係性」というのが前提になるのかなと思います。「いいよ」と言ったとしても、無理やり言わされていたり、嫌われたくないから本当は嫌だけどいいよと言ったりしているとしたら、それは本当の同意じゃないということですよね。

お互いを尊重し合う関係性のなかで安心して「ノー」を言ったり、「ノー」を受け取ったりすることがすごく大切だと思います。

染矢明日香

スキンシップも「大丈夫?」 ひとつひとつ確認し合うと安心できる

杉山:僕は11歳からイギリスに住んでいたのですが、初対面の人とでもハグしたり、ときにはお互いのほおにキスしたりします。そういう文化で僕は育ってきています。ランニングが趣味ということもあって、首や肩がこっている人がいたら男女関係なくマッサージをしてあげていたのですが、あるとき友人に「人によっては嫌かもしれないから、気をつけな」って言われてハッとして。それからは「○○さん、肩甲骨のあたりが硬くなっているかもしれないので、少し筋膜リリースしてもよろしいでしょうか」って聞くようにしています。

僕のこの話、「性的同意とは関係ない」と思う人がいるかもしれませんが、人に触れるときに許可を得るというのは、性行為以前に自分のこころの中に置いておきたいポイントかなと。

染矢:そうですね。性的同意というとセックスのことと思いがちですが、手をつなぐことやハグやキスすることなどから相手の同意を確認していくというのがいいんじゃないかなと思います。

杉山:初デートで「手をつないでいい?」って聞くのって、意外とキュンとするかもしれない(笑)

染矢:私はキュンとしますね。自分の気持ちをちゃんと確認してくれているんだなって。

いくら相手が好きでも、そのときの気分でつなぎたくないこともあるかもしれない。いまは汗をかいていて嫌だ、とか。そういったことも含めて、大切な人とオープンに話し合えることが、安心感につながると思います。

口に出すのが恥ずかしいという人は、たとえば「手をつなぎたいときは手の甲を2回触れるのが合図」とか、ふたりの間だけでわかる合図を決めると、楽しくなるんじゃないかな。

杉山:身体的なつながりの前に言葉を通してこころとこころのつながりがあると、コミュニケーションもふたりの距離感もうまくいきそうな気がします。

ハリー杉山

服装を強要、行動監視……「デートDV」は身近にある問題

杉山:性暴力といってもいろいろあるということですが、10代で起こりがちな性暴力には、どんなものがあるのでしょうか。

染矢:性暴力というと、夜道を歩いているときに襲われる――というようなものをイメージする人もいるかもしれませんが、実は親しい間柄の人から、よく使う場所などで起こるものも多いです。10代だとお付き合いをしている人からというのもありますし、力関係のなかで先輩から、先生からというのもありますし、家族からというのもあります。

今回特にお話ししたいのは、お付き合いをしている同士で起こる「デートDV」についてなんです。先ほどお話ししたような性暴力のこともあれば、殴る蹴るといった身体的暴力もあります。あとは相手が嫌がることを言ったりばかにしたりする言葉の暴力も含まれます。いつも相手におごらせるなどの経済的暴力もあります。

勝手にスマホをチェックしたり、「こういう服装をして」と強要したりすることも、社会的暴力で、デートDVです。

杉山:ちょっと待ってください。相手にこういう服を着てほしいと言うこと、これもデートDVになるんですか!?

染矢:「着てほしい」と言って相手も「いいよ」という同意があればそれは全然暴力ではないのですが、たとえばその人が好きな服装は別で、本当はミニスカートがはきたいのに、「いやミニスカートはダメだ、ズボンをはけ」と言うのは暴力にあたります。「あなたは格好がダサいから、こういうふうに変わって」と強制するのも、暴力になりえます。

性暴力の多くは性欲からじゃなくて、支配欲から起こるといわれています。デートDVも好き同士のはずなのになぜ起こるのかというと、相手を思いどおりにしたいとか、相手に離れていってほしくないからで、暴力をふるってでも自分のもとにいてくれる安心感を得るためにしてしまうんです。

杉山:ちょっと、いままでの僕の人生を振り返ると……昔の話ですが、僕は自分のスケジュールをすべて恋人に送っていました。なぜなら、そうしないと相手がめちゃくちゃ心配するから。普通のことだと思っていたのですが、正直義務みたいになっていてかなりしんどかった。でもしんどいからやめたい、って言えなかった。

染矢:自分の行動を監視されているみたいな感じなのは、社会的な暴力、束縛になりうるし、やっぱり自分らしくいられなくてつらいことかなと思います。

杉山:当時のことを思い出すと、もっと話し合っておけばよかったですね。自分は友だちが多いので、相手を心配させてしまうんじゃないかな、っていう気持ちが強かった。

染矢:でも、心配するのはその人の問題であって、ハリーさんの問題ではないですよね。自分と相手の気持ちを切り離して考える、その境界線がここだなっていうふうにお互い認識し合えるといいですよね。

「あなたは心配しやすい人なんだね。私はここまではできるけど、これ以上はちょっとつらいな」ということが話し合えれば。どちらかが我慢する、どちらかが許容する、という関係性ではなく、お互いできる範囲で協力してやっていけるという関係性になって、安心できるのではないでしょうか。

杉山:自分が相手に対して加害者になったり、被害者になったりしないためにはどうしたらいいのでしょうか。

染矢:まず加害をしないためのチェックポイントは、相手が自分のいうことを聞かないとイライラしたり、相手の行動が気になって仕方なかったりしていないかということです。もしかしたら相手にプレッシャーを与えていないかなとか、暴力になっていないかなと考えるきっかけになります。

被害を受けていないかというポイントは、相手を怖いと感じたり、相手のいうことを聞かないといけないことを苦しいなと感じたりしていないかという点です。そういうことがあるのなら、相手との関係をちょっと見直してもいいのかなと思います。

ハリー杉山と染矢明日香の対談の撮影風景

被害にあうのはあなたのせいじゃない

杉山:性暴力とデートDV、きょうは大きく分けてふたつのテーマについてお話ししました。どちらも、いま10代で実際に被害を受けている人もいると思うんです。どうしたらいいのでしょうか。

染矢:まず伝えたいのは、被害にあった人は絶対に悪くないということです。被害者側に落ち度はないということは強くお伝えしたいなと思います。

どうしても、被害にあった側が悪いんじゃないか、何か要因があるんじゃないかって思われがちですが、暴力を受けていい人というのは誰ひとりいないはずです。

しんどい思いをしているなら、ぜひできる範囲で身近な人にちょっと気持ちを打ち明けてみることで楽になれるかなと思いますし、私たちは被害にあった方を傷つけないような受け止め方を、もっと社会に広げていかないといけないなと思いますね。

杉山:僕もたまに相談されるのですが、だいたい「いやいや、そんな人大至急別れたほうがいいでしょ!」とか、ズバッと言っちゃうんです。でもそうじゃなくて、まずは相手に寄り添って、あなたのせいじゃないよ、自分が悪いって絶対思わないでね、って、そこから始めたいですね。

染矢:そうですね。まずは相手の気持ちを受け止めてほしいです。でも、相談されるほうも重いテーマだと抱え込んでしまうこともあると思います。そういうときは、相談する側もされた側も、専門の相談機関を頼ってほしいです。

Message

みんなへのメッセージ

「ハリー杉山さんより」
相手からみた自分ってどんな人間? いま僕が言った言葉は相手にはどう聞こえる? 相手の身になって理解することが、お互いの距離を縮める絶好のチャンスかも。

「染矢明日香さんより」
自分と相手との境界線「バウンダリー」を大切に。いま思っていることをお互い言葉で表現して、対等な関係性をつくっていこう。