薬物の乱用、どうしたらいい?

薬物の乱用

つらい気持ち、薬で和らげられるの?

市販薬――身近で買える薬にも乱用の危険が

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酒と薬物のこと
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この記事でわかること
関連する診療科

心療内科では、ストレスなど心理的なことが原因となって、からだの症状が出る「心身症」の診療を受けられます。具体的には摂食障害(拒食症や過食症)、過敏性腸症候群(ストレスによる便秘や下痢)、繰り返す頭痛、パニック障害(突然の息苦しさ、めまいなどが起こり、強烈な不安感におそわれる)などについて相談ができます。どんな年齢の人でも受診することができ、中学生や高校生ぐらいの年齢の人もたくさん受診しています。医師や臨床心理士に自分の悩みや困りごとについて話すことができ、各種心理療法や必要があれば飲み薬の処方を受けます。

精神科では、こころの症状や発達障害について診療を受けられます。長く続く気分の落ち込み、物事に集中できない、死にたくなる、衝動がおさえられない、といったことを相談できます。また、学校に行きたいのに行けない、リストカットなどで自分を傷つけたくなる、ネットやゲームから離れられず他のことができなくなる、市販薬などを大量に服薬したくなるなど、自分ひとりでは解決するのが難しいことへの手助けも受けられます。どんな年齢の人でも受診可能ですが、小学生、中学生、高校生は児童精神科を受診することで、より年齢や発達に合わせた専門的な診療を受けられます。医師や臨床心理士に自分の悩みや困りごとについて話すことができ、各種心理療法や必要があれば飲み薬の処方を受けられます。

いま、10代の若者たちの間では、覚醒剤や大麻といった違法薬物だけでなく、市販薬を乱用したり、それにより死亡したりする事例が報道で取り上げられています。

薬物乱用を繰り返してしまう場合は、病院などで相談してみましょう。「多様なストレスにさらされている状況が変わらないのに、治療に来てくれた彼らに『薬をやめなさい』とは言いません」と精神科医の松本俊彦さんは言っています。自分の意思で薬物をやめられないなら、だれかに相談したり、病院で治療を受けたりする必要があります。

薬を飲むことがやめられない?

薬物乱用とは、違法な薬物を摂取したり、決められた用法用量以外の飲み方で飲んだり、大量に摂取したりすることです。特に、薬物を過剰に摂取することを「オーバードーズ(略称:OD)」と言います。

覚醒剤や大麻などは法律で厳しく使用が規制されている違法な薬物です。売買はもちろん、持っているだけで犯罪になります。

これとは別に、かぜ薬やせき止めなどドラッグストアなどで簡単に買うことができる薬でも、薬物乱用に使用されることがあります。

決められた用法や用量どおりに飲めば安全な薬でも、必要がないのに摂取すると、副作用が出て酔ったような状態になったり、感覚が鈍くなったり、気を失ったりすることがあります。

市販されているかぜ薬やせき止め薬のなかには、麻薬や覚醒剤と同じような成分がごく少量含まれているものもあります。コーヒーに含まれるカフェインも多くの市販薬の成分になっていますが、興奮作用を引き起こしかねないので注意が必要です。

また、自分が抱えているつらい気持ちを和らげたい、現実逃避したい、などの理由でのオーバードーズが若い世代の間に広がっています。オーバードーズを繰り返した結果、自分の力ではやめることができず、病院で治療を受けることになる人もいます。

そもそも薬の大量摂取は、大人でも肝障害や意識障害などの原因になり、重い場合は命を落とすことにもなりかねません。10代で薬物依存から抜けられなくなると、大人になるための健全な体づくりにも影響する深刻な事態にもなりかねません。

最近は、カフェインが大量に入った「エナジードリンク」の乱用も問題になっています。カフェインは眠気を覚ましたり集中力を高めたりする効果がある一方、依存性がとても強い食品成分です。

1缶でコーヒー2~3杯分のカフェインが含まれるエナジードリンクもあり、コンビニエンスストアやドラッグストア、自動販売機などで買えるものです。こうしたエナジードリンクを繰り返し飲むと、次第に効き目を感じなくなり、大量に飲みたいという衝動、つまりオーバードーズにつながります。カフェイン入り清涼飲料水の大量摂取による死亡事例もあり、未成年の場合、特に注意が必要です。

薬物乱用 相談

つらい気持ちに寄り添ってくれる大人に相談を

薬を飲み過ぎてしまうのは、学校や家庭などで傷ついたつらい気持ちを和らげたい、まぎらわしたいという気持ちを持っていることが背景にはあります。悩みながら、自分ひとりで何とか解決したいと考えた結果ともいえるかもしれません。

こうした生きづらさやつらい気持ちに寄り添いたいと考えている大人がいます。スクールカウンセラーや保健室の先生たちも、一方的にしかったり責めたりせず、悩みを聞いてくれるはずです。ほかにも、東京都立(総合)精神保健福祉センターでは電話相談ができます。ぜひ信頼できる大人への相談を考えてみてください。

主な相談窓口

○東京都立(総合)精神保健福祉センター
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/shougai/shisetsu/c_tantou.html

○地元の相談窓口を探せる依存症対策全国センター
https://www.ncasa-japan.jp/you-do/treatment/treatment-map/

○警視庁のヤング・テレホン・コーナー
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/sodan/shonen/young.html

○東京都教育相談センター
https://e-sodan.metro.tokyo.lg.jp/mail/index.html

支える方へ~最近の薬物乱用で使われるもの

国立精神・神経医療研究センターは2年ごとに、精神科の入院施設がある比較的大きな規模の病院に対し、覚醒剤などを含む薬物に関する問題があって通院や入院をした患者の実態調査をしています。2022年の調査によると、薬物乱用の治療を受けている10代の65%が市販薬の乱用が原因でした。

かつては10代の薬物乱用と言えば、覚醒剤や大麻などの違法薬物やシンナー、脱法ハーブなどの危険ドラッグが中心でした。2014年の調査では、10代の違法薬物は覚醒剤、大麻、危険ドラッグが64%を占め、次いで睡眠薬や抗不安薬の多用が12%。市販薬はゼロでした。

ところが、この年から市販薬の乱用が急増するようになり、2022年では覚醒剤、大麻、危険ドラッグの割合は合計でも21.7%まで減りました。

覚醒剤や大麻が乱用薬物の大きなシェアを占めていたころは、10代の薬物乱用は非行問題の一つの形態として考えられていました。街中の繁華街などで不良仲間や友人らに違法な薬物を促され、興味本位で始めた結果、やめられなくなったケースが目立っていました。

ところが、いま、こうした繁華街で若者どうしの間で乱用されている薬物は、ほとんどが市販薬です。

繁華街だけではなく、家庭も乱用の現場になっています。自分の目標をかなえ、周囲の期待にもこたえようと勉強や部活動を頑張っている子供たちが、それをつらいと感じたり、人間関係に悩んだりしたときに、ドラッグストアで薬を買ってオーバードーズし、一時的であるにせよ人知れずつらい気持ちから逃れようと間違った目的で薬を飲んでしまっているのが現実です。

オーバードーズの背景には、学校や家庭などでの「つらい気持ちを和らげたい、まぎらわしたい」「自分ひとりでなんとかしなくては」という気持ちからきていることが多くあります。オーバードーズに気づいた周囲の人は、本人を一方的にしかったり責めたりせず、その大もとにある生きづらさや気持ちに寄り添い、スクールカウンセラーや保健室の先生など、信頼できる大人への相談を促したり付き添ったりすることを考えてみてください。