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小児科では、赤ちゃんから中学生ぐらいまでの年齢の人が、からだのこと、こころのこと、成長や発達のことについて相談できます。子どもの時に見つかった病気を、大人になってからも、長年にわたって小児科で診療をうける人もいます。こころのことについては児童精神科でより専門的な診療を受けることができます。予防接種(ワクチン)を受けることもできます。
心療内科では、ストレスなど心理的なことが原因となって、からだの症状が出る「心身症」の診療を受けられます。具体的には摂食障害(拒食症や過食症)、過敏性腸症候群(ストレスによる便秘や下痢)、繰り返す頭痛、パニック障害(突然の息苦しさ、めまいなどが起こり、強烈な不安感におそわれる)などについて相談ができます。どんな年齢の人でも受診することができ、中学生や高校生ぐらいの年齢の人もたくさん受診しています。医師や臨床心理士に自分の悩みや困りごとについて話すことができ、各種心理療法や必要があれば飲み薬の処方を受けます。
生きていくうえで「食べる」ことは欠かせません。しかし、食べることと上手に向き合えず、「摂食障害」という病気になってしまう人たちがいます。特に、小学生や中高生といった10代の患者が増えていることが世界で深刻な問題になっています。この病気に自分がなってしまったり、あるいは家族や友だちが悩んでいたりしたら、私たちはどう向き合っていけばいいのでしょうか。
痩せることは成功体験? コロナ禍で急増した子供の初診
まず、「摂食障害」とはどんな病気なのかを考えたいと思います。 摂食障害は、「痩せなきゃ」という強い思いから食べる量を減らしすぎてしまう「神経性やせ症」と、逆に食べすぎてしまい、嘔吐を繰り返す「神経性過食症」という主に2つの症状に分かれます。 摂食障害の10代の子供たちを治療している独協医科大学教授の作田亮一さん(同大学埼玉医療センター 子どものこころ診療センター長)によると、食べたくない食事を無理に食べさせられたり、食べ物がのどに詰まったりした体験が引き金になって、食事そのものを拒否してしまうような「痩せ願望」のない「回避・制限性食物摂取症」も多いようです。 新型コロナウイルスの感染拡大も、摂食障害の患者が増える要因になっています。作田さんによると、コロナ禍が始まった2020年からの3年間で、10代の神経性やせ症が世界中で1.5~2倍増えました。 それを裏付けるデータがあります。国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の2022年の調査によると、国内30カ所の医療機関を初診で訪れた20歳未満の神経性やせ症の患者は、2021年度にはコロナ前の2019年度より6割も増えたそうです。 家から出られず、休校や学校行事の減少で体を動かす機会が減り、日々の暮らしのなかにストレスが増えてしまったことが理由の一つです。自分も新型コロナウイルスに感染したり、家族や友だちの間で感染者が増えたりしたことも、不安な気持ちを強めてしまう原因になっています。 成長期特有のこころやからだの変化が病気につながることもあります。小学校の高学年から中学生にかけての摂食障害で目立つのが、「神経性やせ症」です。早い子では9歳ごろから思春期を迎え、仲良しグループの間で体形や容姿を比べ合う意識が芽生えます。その結果、「もっと痩せなきゃ」と焦りだし、食事をとらずに痩せ細ってしまうのです。 病気だという感覚(病識)を持てないまま、自分を大切にする「自尊感情」を二の次にしてしまうことも摂食障害の特徴です。みるみる痩せていく変化を成功体験と受け止め、体重を減らすことでしか自分に自信が持てなくなり、その結果、体形や体重についての常識的な判断力を持てなくなってしまうのです。 小児科医である作田さんのところにも、多くの子供たちが親に連れられて治療を受けに来ます。しかし、初めて受診した多くの子供たちは「なんで病院に来なくちゃいけないんだ」と不満に感じているそうです。この段階では子供に医師の言葉は届かず、「太らせる治療ではない」と持ちかけてみても信じてもらえません。「まずは信頼関係を築くことに力を入れています」(作田さん) しかし、治療を急がなければならないケースもあります。体重が直近の4週間で週に1キロずつ急激に減っていたり、標準体重の75%を下回っていたりすると、もう危険水域。自分の力では回復が難しく、医療のサポートが必要です。治療では、こころのケアをしつつ、病初期では身体的な治療(再栄養)を優先させます。深刻な事態になる前に、誰かが危険信号を察知し、早い段階から治療を始めることが大切です。
ひとりで悩む過食症 自分を追い詰め「むちゃ食い」と「吐く」の繰り返し
神経性過食症は、高校生の年代で発症することが多い摂食障害です。神経性やせ症から「進展」してしまうこともあります。治療を通じてようやく少しずつ食べられるようになってきたときには、注意が必要です。食べる量をコントロールすることに慣れておらず、逆に食欲を抑えきれずに「むちゃ食い」をしてしまう事例が目立ちます。 ただ、太りたくない、痩せていたいという思いはあるので、むちゃ食いの代償行為として自分で食べたものを吐き出したり、下剤を飲んで無理に排泄したりする行為を繰り返します。1日に7~8回も食べ、そして食べたものは全部吐き出そうとするので、見かけの体形や体重は変わりません。だから、周囲が気づくのが遅れ、治療が遅れがちになることも神経性過食症の特徴です。 ひたすら吐き続けるのはつらい行為の繰り返しです。日々の生活に対する満足度は削られ、吐き続けている自分を責め、精神的に追い詰められてしまうことも少なくありません。 精神疾患のなかでも、摂食障害は統合失調症やうつ病、双極性障害などと並んで自殺率が高い病気です。神経性過食症の患者のなかには、大人になっても、過食や嘔吐を繰り返す日々から抜け出せず、仕事を続けられなかったり、あるいは盗癖が改まらなかったりするケースもあり、とても深刻な問題です。 もし、まだ治療に踏み切れずに悩んでいるなら、勇気を出して家族や学校の先生、友だちなど周りに助けを求めましょう。あなたは一人ではないのです。両親をはじめ、家族もみなさんの勇気を支えるでしょう。専門の医師たちも、病院に来てくれることを心から願っているはずです。
支える方へ~時間をかけて人生の再設計と向き合おう
周囲はどうかかわればよいのでしょうか。 危険を察知する糸口は、まわりの大人たちが握っています。まずは身近にいる家族が、わが子を苦しめている摂食障害と向き合い、一緒にたたかう意思を持つことが大切です。決して見捨てず、病気の原因探しをしないこと。その上で、家族が子供の食べられそうな食べ物を一緒に考え、食事に責任を持ち、適切に食べる習慣が身につくように見守ってあげる「家族療法」が何より大切です。 しかし、自分の子供の痩せ方が病的なのか、食べている量が病的に少ないのかを客観的に判断することが難しいときもあります。学校の先生やかかりつけ医も、子供が発するさまざまなサインに気づいてあげることが大切です。 学校では、健康診断で標準体重を極端に下回っていたり、体重が増えなければいけない年頃なのに増えておらず、逆に減っていたりする子供を見過ごしていませんか。心拍や、体温をチェックしておくことも大切です。徐脈がみられたり、体温が低めだったりしませんか。給食を残す量が増えたこと、顔色が良くないこと、遅刻が増えてきたことといった体調や様子の異変にも、摂食障害の予兆や症状が見て取れる場合があります。 医療の現場では、生理が止まり婦人科を受診したことで担当医が摂食障害を疑い、治療に踏み切れることもあります。嘔吐を繰り返した結果、歯がボロボロに溶け、歯科治療を受けたことが端緒になることもあります。朝、ふらつくことが多く、起立性調節障害が疑われて小児科を受診したり、胃痛や腹痛で消化器内科を受診したりすることもあります。子供を取り巻くさまざまな専門家たちが「これはおかしい」と気づくアンテナを張っておくことが大切です。 不登校になったり、友だちとの関係が悪化したりするなど、さまざまな問題が派生的に生じてしまう現実もあります。ますます自分を追い込み、自尊感情を傷つけかねません。 子供の気持ちの中で「治りたい自分」と「治したくない自分」がせめぎ合い、治療をためらっていることがあるかもしれません。治療をして体調が良くなったら、家族から見捨てられてしまうのではないかとか、ずっと子供のままでいたい、という気持ちでいることもあるかもしれません。もちろん、治療をして太ることを怖いと思ってしまうことが摂食障害の根本原因ですが、こうした不安感や恐怖感は、多くの場合、体重が回復することで軽減し、やがてなくなっていきます。 摂食障害の治療には、食事と体重の適切なコントロールが欠かせません。同時に、家族や医師、看護師ら医療従事者と一緒に新たな生き方を模索する作業でもあります。本人や家族、また医師にとっても時間と根気が必要ですが、放置すれば、子供は一生苦しみます。治療は焦らず、ゆっくりと時間をかけていきましょう。諦めないことが大切です。「一緒に乗り越えよう」という姿勢を見せて、わが子を支えてあげましょう。